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新生児聴覚スクリーニングの現状と課題

岡山大学病院耳鼻咽喉科講師 片岡裕子氏
     出典 小児科診療 UP-to-DATE Vol44から
上記の要約を書きます。

はじめに
日本では2001年ごろから新生児聴覚スクリーニング(newborn hearing screening:NHS)が導入されました。
それまでしばしば2歳前後で発見されていた先天性難聴ですが、生後すぐにNHSを行うことで、生後3か月までに確定診断、生後6か月までに補聴開始というタイムテーブルでの診断、療育が可能となります。
先天性難聴の診断が遅れると、言語発達の遅れや構音の障害、ひいては学習、コミュニケーションの問題につながります。

小児難聴、NHSの実際
NHSは生後数日のうちに、産科施設入院中に実施されます。検査法は2つあります。
聴性脳幹反応(ABR)を簡易化した自動ABRと耳音響放射(OAE)です。
厚生省はNHS機器として、検出感度がよい自動ABRを推奨しています。
ただ、要精密検査児全員に難聴があるわけではなく、産科施設では、保護者に過剰な不安を抱かせないよう留意したうえで、結果を説明することが重要です。
乳幼児の難聴を正確に診断するためには、他覚的聴力検査も含め複数種類の検査を用い、総合的に評価する必要があります。
これらの検査はすべての耳鼻咽喉科で正確に行えるわけではありません。日本耳鼻咽喉科学会では、聴力の精密検査が可能な専門機関をホームページにリストアップしています。

NHS実施状況
厚生労働省による2018年度の全国調査では、3.7%の新生児がNHSを受けていないというデータがあります。ほとんどの先進国で、10年前からすでに義務化されているのと比較すると、日本のNHSの実施は決して先進的とは言えません。

NHSの課題
3つの課題があます。① 自治体と医療、療育機関の連携体制 ② NHSの公費助成 ③NHSを受けない児に対する対策です。
①情報管理・共有および連携体制
NHSは、検査だけでなく、診断、療育まで滞りなくつなげていくことが必要です。NHSを受けていない児や要精密検査児の情報を自治体が管理し、精査や療育からドロップアウトした児に対して、保健師などが指導・支援を行うといった体制整備が必要です。
②NHSの公費助成
NHS費用は医療機関によって異なりますが、5,000円から8,000円前後に設定されています。
助成している自治体は39%の市町村のみで、厚生労働省はそれぞれの自治体での公費助成を推奨しています。
③NHSを受験してない児に対する対策
分娩施設によってはNHS機器のない医療機関や助産院、自宅での出産児などではNHSをうける機会を逸する可能性が高いです。外来でNHSを受けらる体制がない自治体は46%と半数近くあります。

NHSパス(正常と判断されたの意味です)から発見される難聴
小学校就学前に難聴と診断した児のうち、NHSでパス(OKであった)だった児は20%程度占めるとされています。
つまり小児期に進行する難聴は決して少なくないということがわかります。
進行性難聴のリスク因子としては、難聴の家族歴、頭蓋顎顔面の形態異常、難聴を合併しやすい症候群、先天性サイトメガロウイルス感染症などがあげられています。 1歳半健診、3歳児検診などで、音に対する反応不良、言語発達遅滞、構音障害など見られる児は難聴の疑いがあると考え積極的に耳鼻咽喉科受診を進めてください。